言わばそれは、大きな賭け。









イ リ ス ク 、 ハ イ タ ー ン










そう、例えばそれは勝敗すら解からない決着すらつかない賭け事(ゲーム)と言ってもイイ。
相手に追いつかない鬼ごっこ。ジョーカーのないババ抜き。出口のない迷路。
それに似たようなもの。
約束は覚えているさ。だからこうして君の挑発にも乗らずに踏み止まっていられる。



「大佐」
いつもいつもわざとらしい猫撫で声を出しては、私を挑発する。
「何だね、鋼の」
「んー。ね、キスしよう?」
「大人をからかうな」
そう言って追い払うように手を振るとつまらなそうな顔をしてソファに沈み込む。
「出掛けるとすぐ司令部にとんぼ返りなのに?誰かさんのお呼び出しでさ。
 ここんとこずっとだぜ?だからたまには相手しろ」
「それは何の相手だね。持て余した熱なら自家発電でもしていろ」
「一端の青少年にまぁなんてことを。お言葉遣いが悪いですよ、ロイ=マスタング大佐殿?」
いつの間に執務室の扉をノックして入ってきたのか、扉の前にはヒューズの姿があった。
「…来るなら来ると連絡を入れろといつも言っているだろうが、この馬鹿者」
いつもと変わらぬヒューズの突然の訪問に溜息が出る。何度連絡を入れろと言っても「急いでた」で終わらされる。 目を落とした机の上の書類は一向に片付く気配もない。さじを投げて、もとい。万年筆を転がしてそのまま放っておくことにする。



「おー怖い怖い。急ぎだったんだ、仕方ねぇだろ。よ、エド。元気してっか?」
いささか面食らったままのエドワードが「ぼちぼち」と返した。
「しかし自家発電というのは聞き捨てならねーな。イイか?そんなん持ち余したって自分の肉体的にも精神的にも得するこたないんだ。 だからそこは、ホラ。愛のあるなんたらだよ、青少年!」
「って、着眼点はそこかよ中佐!」
真っ赤になりながらわめく。それを見てヒューズは面白そうにかっかっかと笑う。 子供らしい、というかやっと歳相応の反応を見せる。私には決して見せない彼の姿。
「だってなぁ?男なんてそんなモンだって。俺やロイもそんなもんだよ。な?」
「…そうだな、そんなものだろうな」
私のその言葉を聞いてエドワードはむっとしてソファから立ち上がり、
「俺、帰る」
そのままヒューズの隣をすり抜けて帰ろうとする。
「これは、必要ないのかね?」
引出しから出した書類の束をちらつかせると、狂眼で睨みつけられる。
「あんたなぁ、」
「必要でないんだったらやらん。いいじゃないか、そんなに遅い時間でもあるまいしここにいたまえ」
「そうさ、俺もまだこっちについたばかりなんだからよぉ。たまには相手しろっ」
ぐりぐり、っと頭を小突かれて「離せよおっさん!中佐!!」と抗議するものの子供の扱いになれているヒューズにいいように からかわれ続けていた。まるで街中を駆け回って遊んでいる子供のように。私には見せない顔で。





そう、なんてことのないただの子供なのだ。





「俺が死んで、天国に行っても地獄に落とされても最終的には追い返されちまうと思う。神様には嫌われてるからさ」
いつだかエドワードはそんなふうに言った。そして神様なんて信じてねーけど、とつけたして笑った。
最大の禁忌を犯した、幼い子供。
母親が…とても大きな存在だったのだろう。そうとしか私には言えない。
だが私は嫉妬した。その純粋な愛に、そしてあの小さな身体に秘めた限りない知識と力に。
だから欲しいと思った。力を秘めたあの子供を。
私の手の中で完成されればいい。全てのピースを組み立てたい。
一回り以上年下の子供を欲しいなんて…莫迦らしい。そうも思った。
それでも己の欲求には勝てなかった。まるで他人のおもちゃをねだる子供のような心境。
…どうしてそこまでして欲しいのか、理由はまだ見つけられないまま。










さんざん家庭自慢をしたヒューズは「仕事が終わったから帰る」と席を立ち、私の「今度こそ来る時は必ず連絡を入れろ」 という言葉はあっさりと閉じた扉の前にかき消された。燃やすぞ、と毒づくがその言葉を向けるべき相手は飄々を足早に去って行った後で。 執務室には私とエドワードだけが残され、やがてまた沈黙がエドワードの声によって破られる。
「なぁ、大佐」
「なんだね」
「俺の相手しろ」
「なんの?」
「持て余した熱の処理方法。お子様な俺に大人の見解を説いて聞かせてくれよ。アンタ経験豊富なんだろ?」
厭味ったらしく笑って、机の上に腰を下ろす。黄金色の瞳の奥に、何の色を浮かべている?
「だからひとりで自家発電でもしたまえとさっきも言ったはずだが」
「アンタ、俺のこと抱きたいんだろ?」
確信的な光を宿して私の瞳を覗き込み、自分が勝者だとばかりに唇を笑みの形に歪める。
その答えしかない、とでも言いたげな表情に溜息を吐く。あぁ、だから君は“子供”なのだよ。
「仮に、仮にだ。私が君のことを抱きたいと思っているとしよう。最終的に君との合意の上、抱き合ったとしてもそこから何かが生まれるかね?」
私の問いかけに、光が揺らぐ。
「どういう意味だよ?」
「男同士で抱き合ったとしても、目先の快楽を貪るしか能がない。非生産的なその行為に君は何を求めるんだい?鋼の」
「な、何をって…」
「答えたまえよ、君が求めるものは何なのか」
甘美な熱の放出口か?
しかも非生産的な同性同士で、痛みを伴ってまでして?
その行為に何の意味がある?

























…例えお互いがそれを望んでいても、意味のないものならどうしようもない。






























机の上から私を見下ろす、ざらりとした底光りする視線を向けられる。
泣きそうな顔をしてついさっきまで私の話に耳を傾けていたエドワードとは姿形は変わらずとも、彼を取り巻く空気だけが 形容し難い物々しいものに変わっていくのを肌で感じた。…寒気がする。背中を這い回る不快感に思わず身震いをした。
彼の表情は笑っているとも怒っているとも、困っているとも悲しんでいるともつかない。それでいて無表情でもない。 捉えることの出来ない複雑な表情をしたまま私の頬に両手を添え、身震いした私を知ってか知らずか、 彼は唇の片端だけで笑むと噛み付くようなキスをした。
その瞳は閉じられることなく強い意志とその何かを押し込めて、絶えず溢れる泉のように私を映しながら揺れる。 私は…俺はまるで彼に服従したかのように瞳を閉じ、繰り返し繰り返し触れては離れるその接吻けを余すところ無く受け止めた。

その接吻けは、自分にとって決して嫌なものではないことに気付きながら身を委ねる。
求めることもせず淡々と穏やかに繰り返されるその行為に、不思議と切なさを感じながら。
「なぁ、だから前に言っただろ?俺はアンタを殺したいほど愛してる、ってさ。それが俺の熱だの何だのに対する全ての答えだよ、大佐」
不敵に笑むエドワードに、仕返しだとばかりにキスをして柔らかな唇を噛んでやると薄い皮膚から血が滲んだ。
「…ってぇ…、噛むなよ。血ぃ出てきただろ」
指で滲んだ血を拭おうとするのを制止して、切れた唇に舌を這わすと彼は痛みに顔を顰めた。
うっすらと涙を浮かべた瞳は少し怯えの色を含んで。…黄金色は揺れる。
























































あー 君はそうやって 黄金色の猛禽の瞳で俺の魂を縛りつける
あー 俺はこうやって 漆黒の闇色をした瞳と髪で君の言葉に縋る


そうだ、その先はいつだって暗闇で。


手を伸ばそうとも、目の前で掲げようとも見えないほどの暗闇で。
それでも光に導いてくれる光の、白い金色は物騒なことを言う。
「殺したいほど」なんて、どんな女の甘いだけの声より甘美じゃないか。
余裕なんてものは初めから皆無に等しいんだ。…壊せばイイ。

君の言葉は劇薬。  君の瞳は鎖。  君の躰は其れ自体が甘い媚薬で甘い毒。

そして俺はその毒に沈んでいく。

「イイじゃないか。これが君の言うところの“等価交換”だ」

俺の心を縛りつけた気でいればイイ。俺は俺で、君の傷を舐めていてあげるから。
痛くは、ないだろう?
ただ少しだけ君より長く生きているというだけのことだよ。

















久しぶりの更新(?)
エドロイです。ロイさん視点でやっと出来上がり…が、もう落ちもくそもねーよって感じですが。
日記に書きとめたフレーズがやっと使えてちょっぴり満足。
こんな感じでいきますので、どぞよろしく。

20040405


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